ウェブサイト「中野堯子と加藤貴美恵の中東料理教室」
立ち上げの経緯

文部科学省の助成によって2006年度から2010年度まで実施された「世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業」『アジアのなかの中東:経済と法を中心に』(代表:加藤博)において多くの企画がなされたが、その一つとして、ドキュメンテーションのブックレット・シリーズにおける二つの中東料理レシピのブックレットの発行があった。ブックレットNo.2 『中野堯子さんの中東料理レシピ』とNo.4『中東のもてなし方-スイーツレシピ付き』である。

この二つのブックレットは大変に好評であった。そこで、上記研究プロジェクトが終了した後も、中東料理レシピの続巻を発行しようということになった。先の二つのブックレットで紹介されたのは、中野堯子さんが作成したレシピのほんの一部だけだったからである。問題は、どのような形で残りのレシピを公表するかであった。あまりにも数が多いからである。われわれの結論は、新たに中東料理のレシピに関するウェブサイトを立ち上げることであった。

ウェブサイトのタイトルは、「中野堯子と加藤貴美恵の中東料理教室」である。すべてのレシピが中野堯子氏の作成にかかるものである以上、彼女の名前を冠することは当然である。彼女と並んで名前が記載されている加藤貴美恵氏は中野氏の長年にわたる友人であり、時間の取れない中野氏に代わってウェブサイトの管理を引き受けることになった。以上がこのウェブサイト立ち上げの経緯であるが、そもそもここで紹介される中東料理のレシピがどのような経緯から作成されたかについては、先に」指摘したブックレットNo.2 『中野堯子さんの中東料理レシピ』の序文に記されている。それを再録すれば、次の通りである。(加藤 博)


ブックレット『中野堯子さんの中東料理レシピ』

なぜこのレシピがつくられたのか
このブックレットに納められているのは、わたしがこれまでに書き溜めたレシピの一部です。これらは、次のような経緯でもって書き溜められました。30年程前のことです。友人を通して、PLO(パレスチナ解放機構)駐日代表部に手伝いに来てほしいとのお話がありました。丁度その時、ある研究所からも、正式職員としての採用要請がありましたので、どうしようかと迷いました。しかし、条件は良いとはいえなかったものの、知らない世界を体験出来るまたとない機会となるのではと思い、PLOで働く事にいたしました。英語もアラビア語も出来ない私でしたが、家事や子供さん達のお世話なら、外国の人を相手でも、なんとかなるのではと思ったからです。これが、アラブ料理と出会うきっかけです。

アラブの人びとの日常での食事はきわめて質素で、1日のメインである昼食でも、日本でいう一汁一菜という感じでした。ごはんか薄く丸いパン(フブズ)、野菜とミートボールの入ったシチュー、それにサラダという程度です。しかし、1ヶ月に1度、アラブ諸国の各大使公邸で順番にパーティーが開かれていましたが、そのときは違っていました。順番がPLO東京事務所に回ってきたときは、3日位前から、代表婦人と二人で料理の準備を始めます。そこで初めて、おもてなしのアラブ料理に接することが出来たのです。

3年程でPLO事務所を辞めましたが、辞めてから習い覚えたアラブ料理をもう少し知りたいと思うようになりました。アラブ料理の洋書を買い求め、日本語に訳し、レシピを作りました。そして、毎月4~5人の友人に我が家に来て頂き、アラブ料理の試作を重ねてゆきました。1回に5品位ずつ、4年近く続いたでしょうか。おいしい物、とても口に合わない物と、皆で話し合いながら味を調節したものです。調味料は油のほか、塩とスパイス、酸味はレモン、甘味はドライフルーツと自然の物がほとんどです。肉については、広く知られているように、豚肉は使いません。鳥、羊、牛、そして国によっては鳩も使います。アラブ料理の良いところは、一品に米、肉、野菜を、時にはナッツ類も、一緒にひとまとめに使う料理が多いことです。

しかし、このようにアラブ料理を作っているうちに、ただレシピを見て作っているのでは何か欠けていると思い始めました。料理は、それぞれの国の文化です。それぞれの国の気候風土に合ったものです。どうしてもそれぞれの国へ行って自分の目で見、味わってみたいと思いました。語学の出来ない私は、残念なことに、パック旅行で行くほかありませんでした。しかし、それでも、西はモロッコからアラビア半島、地中海を周ってギリシャまで、十数カ国に行ってみました。同じ料理でも国によって少しずつ、見た目、大きさ、味、名称そして調理法が変わって行くように感じました。

このブックレットに収められたのは、どこの国にもある、伝統的なアラブ料理です。そのため、できるだけ元の形や味から離れないようにしました。しかし、私たちは日本人です。味に工夫をしました。私たち日本人の味覚にも合う、とてもおいしいアラブ料理になったと思います。(2007年7月31日 中野堯子)