プロジェクトについて

「尾崎三雄氏のアフガニスタンでの足跡」立ち上げまでの経緯

2001年9月11日の米国における「同時多発テロ」事件は、その後の世界の政治地図を一変させた大事件であった。この事件をきっかけに、米国とその同盟国は、アフガニスタンを攻撃し、当時、アフガニスタンを統治下に置いていた「イスラム原理主義」勢力のタリバン政権を崩壊させた。アフガニスタンは、世界の注目を集める存在になった。こうしたアフガニスタンをめぐる政治情勢は、そこから遠く離れた日本、それも本州の西のはずれ山口県において、それまで、遺族など、限られた関係者にしか知られていなかった一人の日本人の事績に光を当てることになった。1935年から38年にかけてアフガニスタン政府の依頼で農業指導員として派遣された農務官僚、尾崎三雄(以下、すべて敬称略)が残した、アフガニスタンに関する資料、情報である。その経緯は、山口県立徳山高等学校教諭の藤村泰夫によると、次のようなものであった。

尾崎三雄の遺族である尾崎幸宣夫妻が、アフガニスタンをめぐる国際情勢に触発されて、2001年11月4日、防府市小野の公民館の文化祭で、尾崎三雄の死後、自宅内に残されていたアフガニスタン関係資料のなかから、自身が撮影した写真、数10枚と当時アフガニスタンで使われていたブルカや帽子などの民芸品、数10点を公開展示した。 この展示会を友人と連れ立って見に行き、感銘を受けた藤村泰夫は、尾崎家と接触をもち、高校の課外活動の一環として、たびたび尾崎邸を訪ねるようになった。以来、尾崎家と親交を深めるなかで、尾崎邸内において、写真や民族品だけでなく、膨大な数のアフガニスタン関係文献、資料が所蔵されていることを確認した。 2002年12月、藤村は高校時代の教え子で、当時一橋大学大学院経済学研究科修士課程の大学院生であった河村俊江と連絡をとり、河村は、当時の指導教官であった一橋大学教授加藤博に尾崎の経歴を説明し、残された資料の一部をみせた。それに目を通した加藤は、即座に、その歴史資料としての高い価値を認め、当該資料に関心をもちそうな臼杵陽(当時民族学博物館地域交流企画センター教授、現日本女子大学教授)と鈴木均(アジア経済研究所研究員)に、共同研究を呼びかけた。 こうして、2003年4月29日、加藤、臼杵、鈴木の三名は、藤村、河村の両名を伴って尾崎邸へ赴き、資料の閲覧を願うとともに、今後の当該資料について、遺族である尾崎幸宣夫妻から、それを一橋大学小平キャンパス、アジア経済研究所、当時の民族学博物館地域交流企画センターの三つに分けて保管し、研究のため自由に利用することの許可を得た。

尾崎三雄が残したアフガニスタン関係資料のなかには、欧語やアラビア語、ペルシア語などの辞書、アフガニスタン関係書籍、現地で収集した現地語の新聞雑誌、アフガニスタン関係の新聞雑誌の切り抜きなどのほか、自身の観察に基づくフィールドノート、日記、手紙などがあった。その収集方法や記述内容のすべてが、尾崎三雄が真面目で几帳面な性格であり、稀にみるフィールドワーカー、地域研究者であったことを示している。  

なぜ、これほどの資料がこれまで知られていなかったのか。それはひとえに、尾崎が戦後、農務水産省を辞し、故郷の山口県に戻って以降、アフガニスタンについて、一切口を閉ざしたからにほかならない。なぜ、口を閉ざしたのか。ここで、その理由を詮索する必要はない。われわれとしては、そこに尾崎三雄の潔癖で誠実な性格を垣間見、このような貴重な資料が戦災や洪水などの自然災害を逃れ、残されたことに、ただ感謝するだけである。  

ここに、できるだけ多くの方々に尾崎三雄の事跡を知っていただくために、ホームページを立ち上げる。 なお、これまで、残された資料の整理に際しては、日本貿易振興機構アジア経済研究所のほか、次の四つのプロジェクトから資金援助を仰いだ。お礼を申し上げたい。

(1)「日本・中東イスラーム関係の再構築―中東イスラーム地域研究の新地平」科学研究費補助金基盤研究 (B)(1)、2002-2004年度、研究代表者:臼杵陽

(2)「日本・イスラーム関係のデータベース構築-戦前期回教研究から中東イスラーム地域研究への展開」科学研究費補助金基盤研究 (B)(1)、2005-2007年度、研究代表者:臼杵陽

(3)「エジプト社会経済関係基礎データの蓄積と学際的分析-世帯調査とGIS の接合を中心に」科学研究費補助金基盤研究 (A)(2)、2004-2008年度、研究代表者:加藤博

(4)「アジアのなかの中東:経済と法を中心に」文科省・世界を対象としたニーズ対応型地域研究推進事業、2006-2011年度、研究代表者:加藤博

(2007年11月16日 文責 加藤博)

ライブラリー

加藤博研究室「尾崎三雄PDF資料」  
2007年6月23日 知っておきたい中東 中高生の国際理解セミナー  
場所:周南市市民館小会議室
2007年7月 資料・写真展 「若きアフガニスタンの記録」  
―農業技術指導員尾崎三雄氏収集資料を中心に―
場所:日本貿易振興機構ビジネスライブラリー

新聞記事

2006年8月6日 「中東イスラムを考える」毎日新聞  
2006年8月6日 「県内の高校生イスラムを学ぶ」山口新聞  

リンク

デジタルアーカイブス「近現代アジアのなかの日本」