研究テーマ
(1) エジプト社会経済史:刊行・未刊行法令・文書を駆使し,土地制度を中心に,近代エジプトの社会経済事情を明らかにした。成果は,博士論文を核に構成された『私的土地所有権とエジプト社会』(創文社,1993年)である。
(2) エジプト社会史:①文書資料と聞き取り調査結果の突合せによって,近現代におけるエジプト農村社会の変容を多角的に分析した。成果は,『アブー・スィネータ村の醜聞-裁判文書からみたエジプトの村社会』(創文社,1997年)である。②同じ手法を近代エジプトの遊牧民社会に適用し,さまざまに性格を異にする資料を駆使することで,19世紀中葉における「忘れ去られた」遊牧民反乱を復元し,エジプト近代の裏面史を追求した。成果は,「砂漠に消えた「革命」―近代エジプトの遊牧民「革命」」(『地域研究論集』1,1997年),”The Bedouin in Egyptian National Identity : Minority or Vagabond ? ” ( JCAS Symposium Series 5, 2001) などである。
(3) イスラム文明論・イスラム地域研究:中東を中心としたイスラム世界の政治,経済,社会,文化を文明史的観点から多角的に分析した。その成果は,『文明としてのイスラム-多元的社会叙述の試み』(東京大学出版会,1995年),『イスラム世界の常識と非常識』(淡交社,1999年),『イスラム世界論―トリックスターとしての神』(東京大学出版会,2002年)などである。
(4) 2002年からは,日本人研究者としては初めて,エジプトでの社会調査を許されたことを契機に,エジプト中央統計局と合同で,エジプト都市部・農村部の世帯調査を実施し,そこから得られたミクロ統計データに基づいてエジプト社会を分析するとともに,その結果をセンサスなど,政府発行のマクロ統計データ,ならびに地理情報システム(GIS)関係地理情報と融合することによってエジプト地域研究の新しい分析方法を模索している。その成果は,” Internal Migration Patterns to Greater Cairo-Linking three kinds of data: census, household survey, and GIS ,”(アリ・エルシャズリ, 岩崎えり奈と共著)Mediterranean World XVII, the Mediterranean Studies Group, Hitotsubashi University, Tokyo, 2004年などである。